『ベトナム経済の現状と見通し』―ニュース

『ベトナム経済の現状と見通し』―ニュース

解説 鎌田 隆(沖縄国際大学名誉教授)
はじめに
日本の2009年1-3月期のGDP(国内総生産)は年率換算でマイナス15.2%と他の先進諸国より厳しい戦後最悪を記録した(同期の米国はマイナス6.1%、ユーロ16カ国でマイナス10%)。実質GDPを引き下げた要因(寄与度)では、外需の減少(マイナス1.4%)より内需の減少(マイナス2.6%)なかでも実質GDPの55%を占める個人消費の減少(雇用と所得の悪化)が日本の景気引き下げの最大要因であった。したがって日本のGDPの大幅ダウンは、リーマンショックなど外因とともに「規制緩和」など新自由主義政策の結果の表面化、雇用と所得の悪化による個人消費の落ち込みが最大の原因である。 他方で同じく外需とくに輸出に大きく経済を依存するベトナムは、2000~2007年までのGDP成長率で6.79、6.89、7.08、7.34、7.79、8.44、8.17、そして2007年で8.48%ときわめて好調な経済発展の一途を歩んできた。このベトナム経済にとって2008年の世界的経済危機の影響はどうであったのか。これは注目に値する問題である。そこで早速統計資料に当たろう。 2008年のベトナム経済
2008年の実質GDP成長率は6.23%であり、国際的比較では高い比率である。だが、当初の予測成長率の8.5~9%からすればかなりに失速である。このように、ベトナムは2008年の前半は高インフレ、後半は世界的経済危機の影響と好調な経済成長率維持にとって大きな難関に直面した。 ベトナムでは、2007年後半から経済過熱によるインフレ高騰が惹起した。インフレ率は2008年8月には対前年同期比28.3%とピークに達した。これに対して政府は、「高インフレ抑制を第一優先課題と位置づけ」して、2・5・6月の三度に亘る貸出基準率金利引き上げを実施し、2008年の経済成長率を下方修正して、各種インフレ抑制策を講じた。その結果は世界銀行の6月報告が「金融引き締めなどインフレ対策を評価」し、路肩に乗り上げた(ベトナムという車が)「路肩から車道に戻った」(JETRO理事山田康氏)といわれた。秋には国際的な物価の下落でインフレは小康状態になり、2008年12月で対前年同期比19.89%(2008年通年で22.97%)となった。 それに代わって2008年後半、今度は国際的金融危機と経済不況の影響がベトナムにも押し寄せた。当初、これらのベトナムへの影響はあまり深刻ではないようにみられた(例えば、HSBC、Morgan Stanley、JETRO海外アドバイザー荒川研氏らの楽観的観測)が、1990年代末のアジア通貨危機の頃に比べて現在のベトナムははるかに世界経済への統合は進み、 -1- 楽観を許さないということが、その後明らかになってきた。 それは、ベトナム経済発展を支えてきた二つの要因、輸出と国内需要のうちの、前者、米国・欧州・日本などへの輸出が相手国の経済危機によって2008年10月以降急減に転じたからである。この結果、多くの工場の生産停止や縮小、雇用不安が顕著になった。 2008年8月からは輸出伸び率が低下し、同年11月には対前年同期比でマイナスとなった。 工業団地が集中している南部ドンナイ省で契約更新できない労働者が6000人以上に達し、現在まで成長しつつあった中小企業や日系企業にも人員削減の動きが出始め、ベトナム経済を支える第二の柱である国内需要にも陰りが出ている。一部ではベトナムへの世界的経済危機の影響は、世界平均の18か月より長期に及ぶとの観測もあり、予断を許さない。 政府も経済政策の重点をインフレ抑止策から景気刺激策に切り換えて対応している。 なお、ベトナム経済発展を資金面から支える三つの要素は、外国直接投資(FDI)、ODA,越僑送金である。このうちFDIの2008年の認可件数は前年の3倍強(金額ベース)を超したが、実行額では対前年末比43.2%にとどまった。これは、経済危機から実行を控えたことと外資導入に自信をもった政府による外資へのインセンテイブの縮小・選別政策によると思われる。 2009年の推移、未来を見つめて 今年に入り、2009年第Ⅰ四半期(1~4月)GDP成長率(対前年同期比)は3.1%である。そのうち対前年同期比で、鉱工業・建設業は前年の継続である輸出の減少から低調であるが、財貨・サービスの小売販売額は対前年同期比21.9%増、この国内消費に支えられた商業も対前年同期比23.5%増と堅調である。貿易では、輸出が2.4%増、輸入が45.0%減である。消費者物価上昇率は対前年末比1.32%増で、2008年前半期の物価高騰の主要因となり、消費者物価の約4割を占める食物・食料品の価格は対前年末比1.60%増と昨年に比べて安定している。これらから、2009年に入って、外的要因による輸出の減少の影響は継続しているが国民の消費の復調の傾向は見られる。 2008年後半からの事態は、ベトナム独自の原因によるものではない。また、2000年に上場を開始したハノイ・ホーチミン両証券取引所の上場企業数は未だ200社を数えるばかりで金融危機の影響はさほど強くない。 現在までの目標である、引き続き7%成長で「2020年までに基本的に工業国入り」(1996年第8回大会)、具体的には「2020年のGDPを1990年の8~10倍にする」という大枠の計画に変更はない。そうした基本線を確認いた上で決して細かい変動に動かされることなくしかも細心の注意を払ってベトナムの趨勢を観測しよう。その場合、経済をみる場合の諸々の経済指標(目印)に、例えば人間の健康度をチェックする場合、身長・体重だけで計ることはできず、血圧・血糖値など諸々の指標を勘案して検討する必要があるように、 -2- 一国の経済動向も経済の諸指標から検討すべきであり、ベトナムの場合、GDPだけでなく、直接投資額、貿易額、インフレ率など様々の目印の趨勢に注視する必要がある。 この連載記事は、毎週1回は(協)日越交流センターのご厚意により、ベトナム現地新聞の日本語訳版、日本の新聞などから、同センターが抜粋した見出しのリストにすぎない。さらに関心のある方には、同リストに多出する、FUJINETニュースの日本語版ニュースを購読して頂きたい。